「1on1をやめてほしい」——部下の本音から見えてくる問題
「正直、1on1の時間が苦痛です」。あるIT企業の若手社員が、匿名アンケートに書いた一言です。
1on1ミーティングは、今や約7割の企業が導入しています(リクルートマネジメントソリューションズ調べ)。しかし、導入した企業のすべてが効果を実感しているわけではありません。むしろ「導入したけれど形骸化している」「部下が嫌がっている」という声は少なくない。
私はこれまで数十社の1on1制度を見てきましたが、うまくいかない1on1には共通するパターンがあります。そしてその多くは、ちょっとした意識と仕組みの変更で改善できるものです。
この記事では、1on1がうまくいかない5つの根本原因を掘り下げ、それぞれの具体的な改善策を示します。
原因1: 「業務報告会」になっている
何が起きているのか
「先週のタスクの進捗を教えて」「今週のスケジュールは?」——1on1がこういうやりとりで始まり、そのまま終わっている。これは1on1ではなく、ただのミニ進捗会議です。
部下からすると、「Slackで報告すれば済む内容を、わざわざ30分使って話す意味がわからない」と感じます。上司も「特に問題なさそうだな」で終わり、お互いに「この時間、必要なのか?」と思い始める。
なぜこうなるのか
原因は明確です。1on1の目的が「進捗管理」だと思い込んでいること。特にプレイングマネージャーは、自分の業務も抱えているため、1on1をタスク管理の手段として使ってしまいがちです。
改善策
「進捗の話はSlack、1on1では進捗以外の話をする」というルールを明文化してください。1on1のアジェンダを事前に部下が設定し、「最近考えていること」「困っていること」「キャリアのこと」から選ぶ。これだけで対話の質が劇的に変わります。
具体的には、以下の3つのテーマから1つ選んで毎回の1on1を始めることをお勧めします。
- 仕事の手応え — 最近、一番手応えがあった仕事は何か
- 成長の実感 — この1ヶ月で成長したと感じることは何か
- モヤモヤ — 言語化できていないけど気になっていること
原因2: 上司が「話しすぎている」
何が起きているのか
部下が何か話すと、すぐに上司が「あー、それはね」と自分の経験談やアドバイスを語り始める。気がつけば30分のうち25分は上司が話している。部下は頷きながら「早く終わらないかな」と思っている。
ある企業の人事担当者から聞いた話では、マネージャーの中に「1on1で2時間も演説していた人がいた」そうです。本人は「部下のためになる話をしている」と思っていたのですが、部下は完全に聞き流していました。
なぜこうなるのか
3つの心理が働いています。
- 「教えたい」欲求 — 管理職になった人は、知識や経験を伝えることに価値を感じやすい
- 沈黙への不安 — 部下が考え込んで黙ると、気まずくなって自分が話し始める
- コントロール欲求 — 場を主導していないと落ち着かない
改善策
「7:3ルール」を意識する。部下が話す時間を全体の7割以上にする。
私がクライアント企業の管理職に勧めているのは、1on1の後に「今日、自分は何割くらい話していたか」を記録する習慣です。最初は「3割くらいかな」と思っていた人が、実際に計ると6〜7割話していたというケースは珍しくありません。
もう一つ効果的なのは、質問したあと10秒待つ練習です。部下が考えている沈黙は「思考が深まっている証拠」。その沈黙を奪わないことが、1on1の質を決定的に変えます。
原因3: スケジュールが守られない
何が起きているのか
「今週はちょっと忙しいから、来週にしよう」。この一言が繰り返され、気がつけば1on1が月1回、あるいは実質的に消滅している。
繁忙期に1on1がキャンセルされるのは、多くの企業で起きている現象です。そして一度キャンセルの前例ができると、「忙しければ飛ばしていいもの」という認識が定着してしまいます。
なぜこうなるのか
1on1の優先度が「緊急だが重要でないタスク」より低く設定されているからです。目の前の会議、クライアント対応、締切のある業務——これらに押されて、「すぐに成果が見えない」1on1は後回しにされます。
改善策
「1on1は動かさない予定」として固定する。具体的には:
- 毎週同じ曜日・同じ時間に設定する(例: 毎週水曜14:00-14:30)
- Googleカレンダーに「繰り返し」で入れ、他の予定をブロックする
- キャンセルではなく「リスケ」する——同じ週内に必ず代替日を確保する
- 月に1回もできなかった場合は、その理由を振り返る
Adobe社は年次評価を廃止し、月次の1on1「Check-in」を導入した結果、自主退職が30%削減されました。定期的な1on1の継続が、離職防止に直結するというエビデンスです。
原因4: 心理的安全性が確保されていない
何が起きているのか
部下が本音を話さない。「特に困っていることはないです」「大丈夫です」で会話が終わる。上司は「問題ないんだな」と受け取るが、実は部下は言いたいことを飲み込んでいる。
週1回の1on1を実施しているのに離職率が改善しない企業で調べてみると、部下が「当たり障りのないこと」しか話していないケースが非常に多い。形式上は1on1をやっているが、中身が空っぽなのです。
なぜこうなるのか
部下が本音を話せない理由は主に3つです。
- 評価への影響を恐れている — 「弱みを見せたら評価が下がる」という不安
- 過去に否定された経験 — 以前本音を話したら「それは違う」と言われた
- 上司との関係性が浅い — まだ信頼関係が構築途中
改善策
上司が先に自己開示する。「実は自分も最近、〇〇で悩んでいて」と弱みを見せることで、部下も「この人には本音を話していいんだ」と感じます。
具体的に効果が高い取り組み:
- 「1on1で話したことは人事評価に直接使わない」と明言する
- 上司自身の失敗談を先に話す(自己開示の返報性)
- 部下の意見を否定しない — まず「そう思うんだね」と受け止める
- 上司へのフィードバックを毎回求める — 「私のマネジメントで改善してほしいことは?」
エドモンドソン教授の研究が示すように、心理的安全性はチームのパフォーマンスに直結します。1on1は心理的安全性を醸成する最も身近な場。ここでの一歩一歩が、チーム全体の信頼関係を作ります。
原因5: 「仕組み」がなく属人化している
何が起きているのか
1on1のやり方がマネージャーによってバラバラ。ある上司は毎週きちんとやるが、別の上司は月1回。質問の質も、記録の有無も、フォローの仕方もすべて個人任せ。結果、「上司ガチャ」で1on1の質が決まる状態になっている。
なぜこうなるのか
「1on1を導入します」というトップダウンの号令はあったが、具体的な運用ガイドラインやトレーニングが提供されていない。マネージャーは自己流で進めるしかなく、うまくいく人とそうでない人の差が広がる。
リクルートマネジメントソリューションズの調査でも、導入企業が挙げる課題の上位は「上司の面談スキルの不足」と「上司負荷の高まり」です。
改善策
最低限の「型」を組織として用意する。全員に同じやり方を強制するのではなく、ベースラインを設けることが重要です。
| 仕組み | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 1on1ガイドライン | 頻度・時間・アジェンダの基本ルール | 最低品質の担保 |
| 質問テンプレート | テーマ別の質問例リスト | 面談スキルの底上げ |
| 記録フォーマット | 話した内容・次のアクションの記録 | 継続性の確保 |
| マネージャー研修 | 傾聴・質問・フィードバックの実践練習 | スキル開発 |
| ピアレビュー | マネージャー同士で1on1のやり方を共有 | 横展開と学び合い |
【私のクライアント企業での実践例】 ある製造業(従業員150名)では、1on1を導入して半年経っても効果が見えなかった。調べてみると、マネージャーの8割が「何を話せばいいかわからない」状態だった。そこで、質問テンプレート+90分のマネージャー研修を実施したところ、3ヶ月後のエンゲージメントサーベイで「上司との関係」スコアが15ポイント向上しました。
5つの原因の「チェックリスト」
自社の1on1がどの状態にあるか、以下のチェックリストで確認してみてください。
| # | チェック項目 | 該当する原因 |
|---|---|---|
| □ | 1on1の話題が業務進捗ばかりになっている | 原因1 |
| □ | 上司が話す時間が全体の半分以上を占めている | 原因2 |
| □ | 過去1ヶ月で1on1を2回以上キャンセルした | 原因3 |
| □ | 部下が「特にないです」で終わることが多い | 原因4 |
| □ | 1on1のやり方がマネージャーごとにバラバラ | 原因5 |
| □ | 1on1の記録をつけていない | 原因5 |
| □ | 1on1の効果を測定する仕組みがない | 原因5 |
3つ以上当てはまる場合は、1on1の仕組み全体を見直すタイミングです。
まとめ: 1on1は「導入」より「改善」が難しい
1on1の失敗は、やり方の問題であって、1on1という手法自体の問題ではありません。
週に1回、意味のある対話をしているチームは離職率が18〜43%低く、エンゲージメントが4倍高い。1on1には、それだけの効果がエビデンスとして示されています。
でも「意味のある対話」にするためには、上司のスキル開発と、組織としての仕組みづくりの両方が必要です。どちらか一方だけでは、1on1は形骸化します。
まずは今回のチェックリストで自社の現状を把握し、一番深刻な原因から手をつけてみてください。すべてを一度に変える必要はありません。1つずつ、確実に改善していくことが、1on1を本当に機能させる唯一の方法です。
1on1の改善を支援します
「1on1を導入したけれど効果が出ない」「マネージャーの面談スキルを底上げしたい」——そんなお悩みに対して、現状診断から改善プランの策定、マネージャー研修まで一貫して支援します。
AIで1on1準備・振り返りを効率化したい方へ:AIで業務効率化する具体的な方法(AI Dev School)
この記事を書いた人
辰巳裕亮(たつみ・ゆうすけ)
組織開発Lab オーナー。AgeWellJapan CAWO(Chief Age-Well Officer)。組織開発・L&D(Learning & Development)・カルチャー設計を専門とし、中小企業からスタートアップまで幅広い組織の変革を支援。理論と実践を行き来しながら、「対話で組織を変える」をテーマに活動中。

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