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【図解】シャインの文化三層モデルとは?文化を「構造」で理解し、組織を変える3つのステップ

2025 10/24
組織課題とソリューション チーム改善 理論・モデル
2025年10月25日
目次

1. なぜ“文化”は構造で見なければならないのか

企業が「文化を変えたい」と言うとき、多くの場合は“表面の行動”に目が向きがちです。 会議のやり方を変える。Slackで絵文字を増やす。服装をカジュアルにする。 しかし──それだけでは、文化は変わりません。

なぜなら、文化とは「行動」ではなく、「行動を生み出す構造」だからです。 人のふるまいの背後には、無意識の前提や価値観が存在します。 「発言すると損をする」「ミスは許されない」「上司の機嫌を見て動く」。 これらの“見えない構造”が、組織の空気を形づくっているのです。

表面的な制度改革だけで文化を動かそうとすると、 “構造”が変わっていないために、時間が経てば元に戻ります。 心理的安全性を掲げても、根底の「失敗は悪」という前提が残っていれば、 メンバーは依然として沈黙したままです。

文化を理解するとは、組織の中で「何が当たり前になっているのか」を 構造的に見抜くことです。 そこに初めて、持続する変化の手がかりがあります。

組織文化は“空気”ではなく“構造”である。
その構造を見抜ける人が、文化を動かせる。

組織の文化を構造で捉えるということは、 「行動」「言葉」「前提」という三層の関係を意識することでもあります。 見える行動は“結果”であり、その下には“語られる価値観”、 さらにその奥に“無意識の前提”が存在します。 行動を変えるには、まず構造を理解し、 「なぜそれが良しとされているのか」を問い直す必要があります。

この“構造的視点”こそが、エドガー・シャインが提唱した「文化三層モデル」につながっていきます。 次章では、その理論の全体像を紐解き、文化を構造的に理解するためのフレームを見ていきましょう。

2. シャインの「文化三層モデル」とは

組織文化を“構造”として捉える上で欠かせない理論が、エドガー・シャイン(Edgar H. Schein)が提唱した「文化三層モデル」です。 これは、文化を単なる「価値観」ではなく、三つの層が重なり合う構造として理解するフレームワークです。

シャインは『組織文化とリーダーシップ』の中で、 文化とは「グループが外的環境への適応と、内部統合の課題を解決する過程で共有する、学習された前提のパターン」であると述べています。 つまり、文化は行動の“原因”として機能する「深層構造」なのです。

層名称内容具体例
表層Artifacts(人工物)見える行動・制度・環境会議の雰囲気、服装、Slackの使い方
中層Espoused Values(表明された価値)言語化された理念・信条クレド、ミッション、経営理念
深層Basic Assumptions(基本的前提)無意識の信念・前提「人は信頼できる」「失敗は悪」など

この三層は、いわば「氷山のモデル」として理解できます。 海面上に見えるのは表層の行動(Artifacts)ですが、その下には、 見えにくいが確実に存在する“価値観”と“前提”が文化の土台として潜んでいます。

行動を変えようとするなら、行動を支える前提を問い直せ。

— Edgar H. Schein

たとえば、同じ「朝会」という行動でも、 ・学びを共有する時間として開く組織もあれば、 ・上司が報告をチェックする場になっている組織もあります。 見た目は同じでも、その背景にある「前提」が違えば、意味も体験もまったく異なるのです。

文化を変えるには、まずこの「三層の整合性」を確認することが欠かせません。 掲げているバリュー(中層)と、実際の行動(表層)、そして無意識の前提(深層)が 互いに矛盾していないかを点検することが、文化変革の第一歩です。

逆に、ここにズレがあると、文化は形骸化します。 たとえば「挑戦を称賛する」と掲げていても、 実際には失敗を評価で減点していれば、メンバーは本音で挑戦しなくなります。 文化の再設計とは、この三層を再び“つなぎ直す”ことにほかなりません。

次章では、この三層モデルを“現場で使える形”に落とし込んだ
「文化構造マッピング・キャンバス」を紹介します。
組織の行動・価値・前提を一枚で可視化し、ズレを見抜く実践フレームです。

3. “構造”で文化を読み解く3つの視点

シャインの「文化三層モデル」を現場で活かすためには、 単に理論を理解するだけでなく、実際の行動や会話から“構造”を読み解く視点を持つことが重要です。 文化のズレや停滞は、往々にしてこの「見えない構造」が放置されていることから生まれます。

ここでは、組織文化を観察し、対話によって構造を可視化するための 3つの視点を紹介します。

① 表層の観察:見える行動を丁寧に観る

まずは、会議の雰囲気、Slackでのやり取り、1on1の態度など、「見える行動」=Artifactsに注目します。 文化を分析する最初のステップは「判断せずに観察すること」です。 たとえば、会議で発言しているのは誰か? 沈黙しているのはどんな場面か? そこにはすでに組織の“当たり前”が表れています。

観察によって得られるのは、文化の「症状」です。 しかし症状を観察し続けることで、やがてその背後にある「構造」が見えてきます。

② 中層の言語化:言葉と行動のズレを探す

次に注目すべきは、掲げられている価値観やクレド=Espoused Valuesです。 組織が「こうありたい」と言語化しているものが、日常行動と一致しているかを観察します。 「心理的安全性を重視」と掲げながら、実際には上司が一方的に話していないか? 「挑戦を称賛」と言いながら、失敗した人を減点していないか? この“言葉と現実のギャップ”が、文化の歪みを教えてくれます。

言葉が行動と乖離しているとき、メンバーは「どちらを信じればいいのか」迷い、 やがて“沈黙の適応”を始めます。 文化の健全性は、この一致度(コンシステンシー)で測れるのです。

③ 深層の前提発見:無意識の「当たり前」を問う

最後に探るべきは、Basic Assumptions=無意識の前提です。 メンバーに直接聞いても「そんなこと考えたことない」と返される領域。 だからこそ、ここは対話によってしか掘り起こせません。

問いの例として、次のようなものがあります。 「なぜこのやり方を続けているのですか?」 「それを変えると、何が起きると思いますか?」 「あなたのチームでは、どんな行動が“良い”とされますか?」 こうした質問が、組織の“深層構造”を照らし出します。

見えるものよりも、
なぜそれが“見えるようになっているのか”を見よ。

— 組織文化分析の基本姿勢

この3つの視点を行き来しながら観察することで、
組織文化の“構造”が少しずつ浮かび上がってきます。
次章では、それを一枚で整理できる実践フレーム
「文化構造マッピング・キャンバス」を紹介します。

4. 使えるフレーム①|文化構造マッピング・キャンバス

ここからは、シャインの「文化三層モデル」を現場で活かすための実践ツール、 「文化構造マッピング・キャンバス(Culture Structure Canvas)」を紹介します。 これは、組織の行動・価値・前提を一枚で整理し、文化のズレを“見える化”するためのフレームです。

文化とは「見える行動(Artifacts)」「語られる価値(Values)」「隠れた前提(Assumptions)」の連鎖で成り立っています。 この3つを同時に扱うことで、文化を“点”ではなく“構造”として理解することができます。

観察領域現状(Artifacts)背後の前提(Assumptions)理想の構造(再設計)
会議文化役職者だけが発言し、他は沈黙している「上司が決める」「ミスは評価に響く」誰でも安心して発言でき、挑戦が歓迎される
評価制度個人業績に偏り、チーム貢献が見えにくい「成果がすべて」「挑戦はリスク」挑戦と協働を評価する制度設計に転換
コミュニケーションSlackに雑談がほとんどない「雑談=非効率」「仕事は真面目に」雑談を信頼形成の一部と捉える文化へ

上記のように、現場で実際に観察した行動(Artifacts)を起点に、 「なぜその行動が起きているのか?」という問いを立て、 背後にある前提(Assumptions)をチームで言語化していきます。 そして最後に、「理想の構造」を一緒に設計します。

このキャンバスのポイントは、“行動を変える前に構造を理解する”という順序にあります。 たとえば、発言が少ない会議を変える場合も、 「なぜ発言しないのか?」を問わずにファシリテーションを強化しても、根本は変わりません。 それは“沈黙を生む構造”の上に新しい制度を置いているだけだからです。

行動のデザインは、構造の理解から始まる。
構造を誤れば、どんな制度も逆効果になる。

文化構造マッピング・キャンバスは、 経営層の戦略対話やチームリーダーの1on1、クレド設計ワークショップなど、 あらゆる“文化の見直しの場”で活用できます。 Excelやホワイトボードでも再現可能で、1時間程度で主要テーマを整理できるシンプルさが特長です。

💡活用ステップは以下の通りです:
1️⃣ まず現場の「見える行動」を書き出す(例:Slackでの発言傾向、会議の流れ)
2️⃣ 「なぜそうなっているのか?」をチームで問い合う
3️⃣ 理想の状態を言語化し、行動・制度・評価に翻訳する
これにより、文化の再設計が単なるスローガンではなく、構造を変える実践へと進化します。

5. 使えるフレーム②|文化再設計3ステップ

文化は「構造を理解し、再構築する」ことで変化します。 ここでは、前章のキャンバスを実際に運用するためのプロセス、 文化再設計3ステップ(Observe → Interpret → Redesign)を紹介します。 このサイクルは、どんな規模の組織にも応用可能です。

STEP 1|Observe(観察)― 行動を“判断せずに”見る

まず行うべきは、組織内の日常行動を丁寧に観察することです。 目的は「良い・悪い」を評価することではなく、“当たり前になっている行動”を見抜くこと。 Slackのやり取り、会議の沈黙、雑談の量──それらすべてが文化の手がかりになります。

観察を始めると、見えてくるのは“表層の症状”です。 誰が発言し、誰が黙るのか。どんな言葉が安心を生むのか。 文化の構造は、まずこの観察データから浮かび上がります。

観察は批判ではなく、理解の出発点である。

— Culture Design Handbook

STEP 2|Interpret(解釈)― 背後の“前提”をチームで探る

次に行うのは、観察した行動をチームで共有し、「なぜそうなっているのか?」を話し合うことです。 このステップでは、前提や価値観(Assumptions/Values)を仮説として出し合いながら、 組織を支配している“無意識の構造”を浮かび上がらせます。

対話の際に使える質問例: ・「なぜこのルールがあると思いますか?」 ・「その行動を“良い”と感じる理由は?」 ・「もし逆の行動をとったら、何が起きると思いますか?」 こうした問いが、文化の“見えない支柱”を明らかにします。

この段階で重要なのは、「誰が悪いか」ではなく「なぜそうなったか」に焦点を当てること。 責任追及ではなく構造理解に切り替えると、チームに安心感と共創意識が生まれます。

STEP 3|Redesign(再構築)― 理想の文化を“翻訳”する

最後に、明らかになった構造をもとに、理想の文化をデザインします。 ここで大切なのは、「価値観を新しく作る」のではなく、「既存の構造を翻訳する」こと。 組織がもともと大切にしてきた意識を再定義し、行動や制度に結びつけていきます。

たとえば、 「失敗は悪」という前提がある組織であれば、 「挑戦を学びに変える」仕組みを制度化することで、 文化を“再翻訳”することができます。 行動指針やクレドの改訂、評価指標の見直しもこのフェーズで行います。

文化を変えるとは、人を変えることではない。
“構造を翻訳し直すこと”である。

この3ステップは、短期間で終わるものではありません。 観察・解釈・再設計を何度も回しながら、組織は少しずつ新しい「当たり前」を育てていきます。 文化は、理解され、翻訳され、共有された瞬間から変わり始めるのです。

6. 実践例|スタートアップでの文化構造分析

理論やフレームを理解しても、実際の組織でどのように使うのかがわからないと変化は起きません。 ここでは、あるスタートアップ企業をモデルに、文化構造を分析・再設計した事例を紹介します。

この企業は「挑戦を楽しむ」というバリューを掲げながらも、実際には新しい提案がほとんど出ない状態でした。 Slackの議論は上層部主導で、若手は黙って様子をうかがう──。 見た目には活発そうに見えるが、どこか停滞感が漂っていました。

Before|構造を可視化する

層内容
表層(Artifacts)新規提案が出ない/Slackでの発言が偏る
中層(Values)「挑戦を楽しもう」というスローガンを掲げている
深層(Assumptions)「失敗すると評価が下がる」「上司の判断が絶対」

この構造をチームで共有したとき、多くのメンバーが「確かにそうだ」と頷きました。 文化が“行動ではなく構造”によって形成されていることを実感した瞬間です。

After|構造を再設計する

変更点再設計後の仕組み
前提「挑戦は学びであり、失敗も成果の一部」と再定義
制度月次レビューで「挑戦賞」を新設/失敗共有の場を設置
行動Slackに「#try報告」チャンネルを作り、挑戦を称賛する文化を可視化

結果、3か月後にはSlack上の提案数が3倍に増加し、 心理的安全性を測るサーベイスコアも大幅に上昇しました。 「挑戦=リスク」だった構造が、「挑戦=成長」に変わったのです。

文化を変える鍵は、制度でもスローガンでもない。
“前提を問い直す勇気”にある。

このように、文化三層モデルを用いると、 見えない前提がどのように行動を制約しているのかを明確にできます。 そして、前提を言語化し直すことで、文化の再設計が始まります。

7. 文化を“構造”で見るリーダーの役割

文化を変える主役は、制度や仕組みではなく、それを扱うリーダーです。 リーダーが「行動」を見るか、「構造」を見るかによって、 チームの学習力も、心理的安全性も大きく変わります。

リーダーの役割は、メンバーの行動をコントロールすることではなく、 行動を生み出す“構造”を整えることにあります。 たとえば、会議で発言が少ないなら、「誰が悪いか」ではなく、 「なぜ発言がしにくい構造になっているのか?」を問い直す。 それが、文化を動かす第一歩です。

人を変えるよりも、構造を変えよ。

— 組織文化リーダーの鉄則

① 「ズレ」を観察する力を持つ

文化の成熟度を測る最も確実な方法は、言葉と行動のズレを観察することです。 リーダーは理念を語るだけでなく、日常のふるまいがその理念と一致しているかを見つめる必要があります。 ズレを見つけたとき、それを責めるのではなく「構造的なサイン」として受け取る姿勢が重要です。

② 「前提」を対話で掘り起こす

深層の文化を変えるには、トップダウンではなく対話が必要です。 「なぜそれが良いとされているのか?」を一緒に考えることで、 チームの中に眠る“無意識の前提”が姿を現します。 このプロセスをリーダーが主導することで、 文化変革は押しつけではなく“共創”になります。

問いを立てるリーダーは、指示を出すリーダーよりも強い。

③ 「構造を翻訳する」役割を担う

文化の再設計において、リーダーは翻訳者のような存在です。 理念(Why)を行動(How)に、前提(Assumptions)を制度(Systems)に翻訳する。 この“構造の翻訳”がなければ、理念は現場で形を持ちません。

たとえば、「挑戦を大切にする」という価値観を、 「挑戦を報告できるSlackチャンネルを運用する」などの仕組みに変換する。 このようにして、抽象的な理念が具体的な行動へとつながっていきます。

文化を“構造”で見るリーダーは、 人を変えようとせず、環境を整える。 批判ではなく問いを立て、管理ではなく対話で動かす。 その積み重ねが、組織に本物の心理的安全性と挑戦の連鎖を生み出します。

8. まとめ:文化は見えない“構造”から始まる

組織文化とは、行動や制度といった「表面の出来事」ではなく、 それらを生み出す「見えない構造」の総体です。 表層の行動を変えようとしても、深層の前提が変わらなければ文化は元に戻る。 文化改革の本質は、“構造を問い直すこと”にあります。

シャインの文化三層モデルは、文化を「見える行動」「語られる価値」「無意識の前提」の三層で捉え、 それぞれの整合性を点検するための“羅針盤”です。 組織のズレや歪みを発見したとき、それを責めるのではなく、 「どんな構造がそうさせているのか?」と考える視点こそが、 リーダーとチームの変化を生み出します。

文化は一夜にして変わるものではありません。 しかし、構造を理解し、少しずつ翻訳し直していくことで、 組織の“当たり前”は確実に変わっていきます。 制度ではなく構造を整え、命令ではなく対話で動かす。 その積み重ねが、学び合い、挑戦し続ける文化を育てるのです。

文化は空気ではない。
それは、問いと構造によってつくられる。

あなたの組織に漂う“当たり前”の中にも、きっと変化の種が隠れています。 見える行動の奥にある構造を見つめ、そこに小さな問いを置くことから始めましょう。 その一歩が、文化を再構築する最初のデザインになるはずです。

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