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スタートアップの文化形成と失敗パターン──“最初の10人”が会社の未来を決める

2025 10/24
組織課題とソリューション エンゲージメント チーム改善
2025年10月24日
目次

スタートアップにおける「文化」の決定的な役割

スタートアップが成長していく過程で、最も見えにくく、そして最も影響力を持つのが「文化」です。
資金調達の有無や事業モデルの巧拙よりも、長期的に企業を支えるのは“人のふるまいの型”──つまり文化です。

スタートアップでは、明確なルールや制度がまだ整っていません。
評価制度もなければ、マニュアルもない。
そんな状況でメンバーが日々の判断を下すとき、頼りにするのは「この会社ではどう考えるのが正しいのか?」という感覚です。
その“空気”こそが、まさに文化のはじまりです。

創業者の言葉
「うちでは“スピード重視”が合言葉なんだよ」

この何気ない言葉が、メンバーの行動を変えていきます。
ミーティングでは「とりあえずやってみよう」が合言葉になり、Slackでは誰よりも早く返信することが“良い姿勢”とみなされるようになる。
こうして、制度ではなく空気によって組織が動く状態が生まれます。

経営者のふるまいは、文化形成の最も強力な“種”です。
創業者がミスを笑い飛ばせば、失敗を恐れない文化が育ち、逆に怒りを露わにすれば、誰もチャレンジしない文化が定着する。
文化は言葉よりも「態度」と「日常の行動」から形づくられます。

ポイント
文化は“文章”ではなく、“ふるまいの連続”から生まれる。
だからこそ、最初の10人の行動習慣が会社の未来を決める。

最初の10人が、どんなコミュニケーションをとり、どんな基準で意思決定をしているか。
その「ふるまいの集合」が、のちに新しく入ってくる100人、1000人の行動モデルになります。
文化は一朝一夕に作るものではなく、毎日の言葉と行動の積み重ねによって“醸成される”ものなのです。


文化は“意図せず”生まれる

「うちはまだ文化なんて早い」──そう考えるスタートアップは少なくありません。
しかし実際には、文化はどんな組織にも、設計しなくても「勝手に」生まれています。
それが良い形で育つか、歪んだ形で固まるかは、創業初期の無意識のふるまいにかかっています。

組織文化研究の第一人者であるエドガー・シャインは、文化を次の三層で捉えました。

シャインの組織文化三層モデル
表層:目に見える行動・制度(アーティファクト)
中層:表明された価値観・理念(バリュー)
深層:無意識の前提・信念(ベーシックアサンプション)

スタートアップの場合、この「表層(行動)」が猛烈なスピードで先行し、
「中層(価値観)」や「深層(前提)」の定義が追いつかないという現象がよく起こります。
つまり、理念やクレドが後から整備される頃には、すでに“無意識のルール”ができあがっているのです。

たとえば、Slackの使い方一つをとっても文化は滲み出ます。
「返信は早い方がいい」という暗黙の了解がある組織では、スピードが重視され、
一方で「考えてから返すことが評価される」組織では、熟考が文化になります。

会議の雰囲気にも同じことが言えます。
経営者が常に発言をリードする会議では、メンバーは“聞き役”に回る文化が生まれます。
逆に、問いかけから始まる会議では“考える文化”が育ちます。
採用面接の判断軸も文化の鏡です。
「スキルより価値観で採る」会社と、「成果が出せる人を優先する」会社では、
1年後にはまったく異なる空気が流れているでしょう。

このように、文化は“意図しなくても形成される”という厄介な特徴を持ちます。
放っておけば「声が大きい人が勝つ」「社長の機嫌で方針が変わる」といった“歪んだ前提”が固定化されてしまう。
そして一度固まった文化は、構造改革よりも変えるのが難しいのです。

注意
文化は「つくる」より「放置しない」ことが大切。
早い段階で“意図的に言語化”しなければ、無意識の前提が組織を支配する。

理念やクレドを整備するのは、企業が大きくなってからではなく、むしろ初期段階でこそ必要です。
文化をデザインできるうちに「私たちは何を大切にする組織なのか」を明確にしておく。
それが、急成長の中でも組織を崩さない唯一の方法なのです。

よくある文化形成の失敗パターン(5選)

文化は、誰かが「つくろう」と意識しなくても勝手に形成されます。
スタートアップでは、この“無意識にできてしまう文化”が思わぬリスクを孕みます。
理念やクレドを整備するよりも前に、日常の判断・会話・反応が文化を形づくってしまうからです。
ここでは、多くのスタートアップで見られる5つの典型的な失敗パターンを整理します。


① 創業メンバーの「暗黙の了解」文化が固定化

創業初期、数人で事業を立ち上げる段階では、意思疎通は驚くほどスムーズです。
夜中まで同じオフィスで働き、ランチや飲み会でも議論を重ねる──
その密度の高いコミュニケーションが“以心伝心の文化”をつくります。

しかし、チームが10人を超える頃から、この「言わなくても通じる」文化がむしろ障害になります。
後から加わったメンバーにとって、その“空気のルール”は見えません。
なぜか注意される、なぜか発言しづらい、なぜか評価されない──。
これが「文化の壁」の正体です。

多くの創業者がここで直面するのは、
“行動の共有”はできていても、“意味の共有”ができていないという現実です。
文化とは、行動そのものではなく「なぜそうするのか」という共通の意味づけにあります。
言語化を怠ると、意味を知らない人にとってそれは単なる“ルール”に変わり、やがて反発を生みます。

教訓
スタートアップの初期文化は、スピードの源泉であり、将来の“壁”でもある。
拡大期に必要なのは「空気の共有」から「言葉の共有」への転換。

「なんとなく」で成立していた関係性を、「なぜ」に変換できるリーダーこそ、成長フェーズを乗り越える経営者です。


② ミッション・バリューを「後付け」で作る

多くの企業が一定の規模に達してから、「そろそろ理念をつくろう」と考えます。
しかし、その時点で組織内にはすでに強固な“現場文化”が存在しています。
後から作った理念やクレドが現場に馴染まないのは当然のことです。

例えば、数字至上主義が染みついた組織で、急に「人を大切に」と掲げても、
メンバーの頭の中では「結局、売上が一番でしょ?」という認識が消えません。
理念は「掲げる」ものではなく、「すでに行われている良い行動を抽出する」ものなのです。

元スタートアップマネージャー
「バリューをポスターに貼っても、
 上司がそれを無視して数字だけ追ってたら、誰も信じなくなります。」

この状態を皮肉を込めて「ポスター文化」と呼びます。
理念が“飾り”になった瞬間、文化は分裂します。

注意
理念は「掲げるもの」ではなく、「発掘するもの」。
現場にすでにある“良い行動”を言語化したとき、初めて文化になる。

SmartHRやSansanなど、文化浸透が強い企業は、創業初期から
「どんな行動を良しとするか」「何を大切にするか」を自然に言葉にしてきました。
言葉が先ではなく、行動が先。その行動に意味づけを与えることが「文化の定着」なのです。


③ 採用でカルチャーフィットよりスキルを重視

スケール期に入ったスタートアップで最も危険なのが、“スキル重視採用”への偏りです。
「今すぐ動ける人がほしい」「専門性が高い人を採ろう」──その焦りが、文化崩壊の第一歩になります。

文化は“人”によってしか形を保てません。
一人でも価値観が合わない人が入ると、チームの信頼関係が音を立てて崩れます。
Slackのトーン、会議での発言、顧客への対応…あらゆるところに違和感が現れます。

Netflixのカルチャーデックは、その教訓を明確に示しています。
「Brilliant Jerk(優秀だけど協調性のない人)」を採用しない。
なぜなら、優秀な一人よりも、信頼し合えるチーム全体の方が強いからです。

カルチャーフィットの3つの軸
共感軸:ミッション・バリューへの内的共鳴
行動軸:日常のふるまいが理念に沿っているか
成長軸:フィードバックを受け入れ、自省できる姿勢

スキルは後から伸ばせますが、価値観の不一致は治せません。
採用とは「即戦力を集める行為」ではなく、「文化の未来を選ぶ行為」です。


④ 創業者の“熱量依存”で回る文化

創業者の情熱は、スタートアップの原動力です。
しかし、そのエネルギーがあまりに強いと、周囲のメンバーは「受け身のフォロワー」になってしまいます。

経営者が「とにかくやろう!」と鼓舞すれば、初期は士気が上がります。
けれど、そのリーダーが出張や病気で数日離れただけで、組織が止まる──これは典型的な“熱量依存型文化”の症状です。

文化が“個人のカリスマ”に依存していると、その人がいなくなった瞬間に崩壊します。
大切なのは、熱量を構造に変えること。
つまり、創業者の想いや信念を言葉・儀式・習慣として組織に埋め込み、
誰がリーダーでも同じ意思決定ができる状態をつくることです。

Appleのスティーブ・ジョブズも生前、「文化は戦略を超える」と語りました。
創業者の哲学が、後継者の行動を導く形で組織に残ったからこそ、Appleは彼の死後も成長し続けたのです。

教訓
情熱は点火装置、文化はエンジン。
リーダーの熱を仕組みに変えたとき、組織は自走を始める。


⑤ 成果主義が先行し、心理的安全性が失われる

スタートアップの多くは、「挑戦」「スピード」「結果」を掲げます。
それ自体は悪くありませんが、成果を出すことが唯一の“正義”になると、
チームは急速に萎縮していきます。

Googleの研究「プロジェクト・アリストテレス」では、
最も成果を上げるチームの共通点が「心理的安全性」であることが示されました。
つまり、安心して発言できる環境こそ、イノベーションの土台なのです。

一方で、日本の多くのスタートアップでは、数字のプレッシャーが文化を歪ませます。
「失敗したら終わり」「上司に怒られる」「会議では黙っておこう」──。
これが積み重なると、挑戦どころか“報連相のない組織”になります。

心理的安全性は「ぬるさ」ではなく、「信頼の強度」です。
互いに率直なフィードバックを交わせる関係こそ、最も挑戦的なチームをつくります。

たとえば
・失敗を共有する「やらかし会」
・リーダー自身が反省をオープンに話す
・Slackで「#今日のチャレンジ」チャンネルを設ける
こうした“小さな習慣”が、心理的安全性を根付かせる。

成果主義は文化の敵ではありません。
ただし、安全と挑戦のバランスを意識しない限り、組織は短期的成果に飲み込まれます。
安全があってこそ、挑戦は文化になるのです。


まとめ|文化は“放っておくと歪む”

スタートアップの文化は、熱量・スピード・人間関係の近さから生まれます。
それは同時に、最も脆い土台でもあります。
文化を守るために必要なのは、理念の整備でも、制度の構築でもありません。
日々のふるまいを意識化し、言語化すること。
「私たちは何を良しとしてきたか?」を定期的に問い直すことです。

文化は放置すれば歪みます。
だが、意識して耕せば、組織の最大の資産になります。
そして、スタートアップにとって文化とは、単なる“雰囲気”ではなく、
未来を形づくる“無形の戦略”なのです。

文化形成の成功パターン──意図的な「言語化」と「行動化」

前章で見たように、スタートアップの文化は放っておくと歪みます。
だからこそ、文化を「意図的に設計する」ことが重要です。
文化は自然発生するものではなく、組織の意志によって形づくられる“戦略的な資産”なのです。

ここでは、成長し続けるスタートアップに共通する文化形成の成功パターンを4つに整理します。


① 創業初期から「価値観」を明文化する

文化形成の最初の一歩は、“言葉にする勇気”です。
まだ数人しかいない時期に「うちの大切にしたい価値観」を話し合うのは、少し気恥ずかしいもの。
しかし、そのタイミングこそが、最も本音で議論できる瞬間です。

SmartHRでは、創業初期の段階から「どんな行動を褒めたいか」「どんな人と働きたいか」を言語化してきました。
そこから生まれたバリューが「自分ごと化」「やってみよう」「人にやさしく」。
これらはスローガンではなく、日々のSlackの一言や会話に根づいています。

SmartHR創業者 宮田昇始 氏
「バリューは社員を管理するためではなく、
 一人ひとりが自分らしく動ける“判断の支柱”として機能している。」

価値観を早期に明文化することの最大の効果は、「意思決定の基準を共有できる」ことにあります。
制度が未整備でも、理念があるだけで迷わずに行動できる。
文化は、その“判断の共通言語”から生まれるのです。

Point
価値観は「かっこよく作る」ものではない。
創業メンバーの口ぐせ・共通の癖・信念を拾い上げることから始めよう。


② リーダー自身がバリューを体現する

文化を根づかせる最も強力な方法は、トップが「語る」ことではなく「やる」ことです。
リーダーの行動は、全社員の“無意識の指針”になります。
どんな理念も、経営者のふるまいがそれを裏切った瞬間に無意味になる──それが文化の真理です。

Sansanの寺田親弘氏は、よく「文化は経営者の背中で決まる」と語ります。
同社のキーワード「わざわざやる」は、
効率ではなく“丁寧さ”に価値を置く文化を象徴する言葉です。
寺田氏自身がどんな場でもお客様に直筆メッセージを添える習慣を続けていることで、
その哲学が全社に浸透しました。

「文化はスローガンではなく、経営者の日常に宿る」──Sansan 寺田親弘

文化は「言葉」より「反射」で伝わります。
ミスをした部下にどう反応するか。
成果を出した人をどう称賛するか。
その一つひとつが、文化のDNAとしてコピーされていくのです。

ポイント
リーダーの行動は100回の言葉よりも強いメッセージ。
文化の体現とは、理念を“態度”に変えること。


③ 採用・評価にカルチャーフィットを組み込む

どんなに理念が素晴らしくても、それを体現する人がいなければ文化は定着しません。
文化を育てる最大の場は「採用」と「評価」です。

Netflixは採用時に、スキルや経歴よりも「Freedom & Responsibility(自由と責任)」という価値観への共感を重視します。
メルカリでは、バリュー「Go Bold」「Be a Pro」を基準に、行動評価を制度化しています。
つまり、文化を浸透させる最も実践的な方法は、「評価される行動」を文化と一致させることなのです。

カルチャーフィットとは、単なる“気が合う人”を選ぶことではありません。
むしろ、多様な個性が共通の価値観を軸に行動できる状態を指します。

具体例
・採用面接では「最近チームで衝突した経験」を尋ねる。
・カルチャーデックを事前共有し、候補者のリアクションを見る。
・評価面談では「どの行動がバリューを体現していたか」を具体的に振り返る。

これらのプロセスを積み重ねることで、文化は“理念”から“制度”へ、そして“習慣”へと落とし込まれていきます。

ポイント
文化は「採用」で始まり、「評価」で定着する。
スキルマッチよりも、バリューマッチが組織を長生きさせる。


④ 振り返りと対話で文化をアップデートする

文化はつくったら終わりではありません。
むしろ、成長する組織ほど「文化の見直し」を繰り返しています。
人が入れ替わり、事業が変化すれば、価値観も微調整が必要になるからです。

メルカリでは、創業から数年おきに全社で「バリューリフレクションワークショップ」を行っています。
全社員が自社の価値観について語り直し、現在の組織に合わない部分を“更新”する。
これにより、バリューが「過去の遺物」ではなく「現在進行形の指針」として生き続けています。

文化は静的なものではなく、対話によって呼吸する“生き物”です。
月次の1on1やチームミーティングで、「最近、うちの良い文化って何だと思う?」と問いかけるだけでも、
組織の温度が一気に変わります。

若手メンバーの声
「“文化って何?”を語るとき、会社の一員である実感が湧くんです。」

文化をアップデートできる組織は、必ず人も育ちます。
それは、会社の哲学に“余白”があるということ。
「正解を守る組織」ではなく、「問いを更新できる組織」が、変化の時代を生き抜く文化です。

実践ヒント
・半期ごとに「バリュー・リフレクション」を設ける
・Slackに「#文化を語ろう」チャンネルをつくる
・新入社員に“文化に違和感を感じた瞬間”を共有してもらう


⑤ 「日常のふるまい」に文化を埋め込む

最後に、文化を“根づかせる”最も本質的な方法があります。
それは、日常のふるまいそのものに文化を宿らせることです。

「バリューを守ろう」ではなく、「自然とそうしてしまう」。
この段階に到達すると、文化は“ルール”から“リズム”に変わります。

Sansanでは、Slackに「#thanks」チャンネルがあり、
日々の小さな感謝を投稿する文化が根づいています。
SmartHRでは、週報の最後に「ありがとうを伝える欄」があります。
こうした仕組みが、単なる“制度”ではなく“行動習慣”として文化を育てているのです。

エドガー・シャインは言いました。

「リーダーが文化をつくり、やがて文化がリーダーをつくる。」

この言葉の意味は、文化が定着した組織では、
もはやトップが指示しなくても、メンバー自身が正しい行動を選べるということです。

🪶まとめ:
文化は「文章」ではなく「ふるまいの累積」。
“あいさつの仕方”“会議の空気”“感謝の伝え方”──それらすべてが文化の断片。

スタートアップが文化を強くするとは、
理念を掲げることではなく、日常の中に小さな儀式を埋め込むことなのです。


結論|文化は「デザイン」と「祈り」のあいだにある

文化は、数値化も完全なマニュアル化もできません。
それでも、組織を導く羅針盤として、文化は確実に存在します。
スタートアップにおける文化形成とは、制度設計の仕事であると同時に、祈りのような営みでもあります。

「この会社が、こうであってほしい。」
その願いを、日々の言葉と行動で積み重ねていく。
それが、“意図的に文化をデザインする”ということです。

文化は、創業者の影から始まり、やがてみんなの意思になる。
そしてそれが、スタートアップの最大の競争優位になるのです。

日本スタートアップの実例まとめ──文化が成長を導く4社のケーススタディ

ここまで、文化を「意図してデザインする」重要性を見てきました。
では、実際に日本で成功しているスタートアップは、どのように文化を築き、維持しているのでしょうか。
この章では、代表的な4社──SmartHR、Sansan、メルカリ、サイボウズ──の文化形成を比較しながら、
それぞれがどのように“文化を競争優位”へと昇華させてきたのかを探ります。


① SmartHR|「やさしさ」と「自律」を両立させる文化

SmartHRのカルチャーの中心にあるのは、「人にやさしく」「自分ごと化」「やってみよう」。
この3つのバリューは、どれも社員の“ありたい姿”から導き出されたもので、
言葉としての美しさよりも、日常で“使える指針”を意識して設計されています。

創業者の宮田昇始氏は、「文化はルールではなく、判断の基準」と語ります。
同社では、Slack上でも「やってみよう!」のスタンプが飛び交い、
新しいアイデアを提案した人を称賛する文化が定着しています。

宮田昇始 氏
「やさしさとは、相手の意見を尊重するだけでなく、
 フィードバックする勇気を持つことでもある。
 “心理的安全性と挑戦”が共存する文化を目指しています。」

SmartHRは、制度よりも“対話の習慣”を大切にしています。
全社会議では、経営陣が社員からの匿名質問にリアルタイムで答える「Ask the CEO」セッションを実施。
透明性と信頼が文化として機能しているのです。

🧩文化キーワード:心理的安全性/自律/オープンコミュニケーション
💬 象徴的な仕組み:「Ask the CEO」・Slackでの感謝共有・週次1on1文化


② Sansan|「わざわざ文化」──非効率の中に価値を見出す

Sansanは「わざわざやる」という独特な文化で知られています。
この言葉には、単なる効率ではなく「人の心を動かす手間を惜しまない」という哲学が込められています。

創業者の寺田親弘氏は、社員に「目の前の仕事を“手紙を書くように”やれ」と語ります。
デジタル名刺という無機質なプロダクトに“人の温度”を宿らせる──。
そこにSansanの文化の本質があります。

寺田親弘 氏
「ビジネスは人と人との信頼関係。
 だからこそ、非効率なことの中に“価値”がある。」

同社では、顧客対応の「わざわざエピソード」をSlackで共有する文化があります。
一見ムダに見える行動を称賛する。
それが「効率ではなく誠実さを重んじる」カルチャーの土台を支えています。

🧩文化キーワード:誠実/丁寧さ/顧客信頼
💬 象徴的な仕組み:「わざわざ賞」制度・顧客手書きカード文化

Sansanの文化がユニークなのは、理念が行動の中で“美学”として表現されていること。
それは、文化が「ルール」ではなく「誇り」として共有されている証拠です。


③ メルカリ|「挑戦」と「学び」を組織に埋め込む

メルカリの文化は、スローガンではなく「行動規範」そのものです。
バリューの中核には、「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(チームで成果を)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」の3つがあります。

特に「Go Bold」は、文化的DNAとして浸透しています。
失敗を恐れずに挑戦した人が称賛され、
「やらないリスク」の方が大きいという価値観が組織全体に共有されています。

実際、同社の社内Slackには「#learn-from-failure」というチャンネルがあり、
社員が自分の失敗体験をオープンに共有する文化が存在します。
この“失敗の共有”こそが、心理的安全性の最も高い表現なのです。

小泉文明 氏(会長)
「挑戦しないことが最大のリスク。
 メルカリでは“挑戦した上での失敗”を高く評価する。」

また、メルカリは「Be a Pro」という言葉のもと、個人の成長にも強い関心を持っています。
社員一人ひとりが自己理解・学習を続けることを奨励し、
OKR制度を「個人の成長ログ」として活用しています。

🧩文化キーワード:挑戦/学び/透明性
💬 象徴的な仕組み:OKRの公開・失敗共有Slack・ピアフィードバック制度

メルカリは、「大胆さ」と「学び」の両立によって、
文化を“成長装置”として機能させているのです。


④ サイボウズ|「多様性」と「チームワーク」が共存する文化

サイボウズの文化は、日本企業の中でも異彩を放っています。
同社のスローガンは「チームワークあふれる社会をつくる」。
その実現のために、“100人いれば100通りの働き方”を標榜しています。

これは単なるスローガンではなく、実際に制度化されています。
在宅勤務、副業、時短勤務、地方在住──あらゆる働き方を認める。
しかもそれを「社員の自己責任」ではなく、「チームの合意形成」で決めるのが特徴です。

この柔軟性の背景には、「心理的安全性 × 相互尊重」という文化的土壌があります。
サイボウズは社員が自由に意見を発信できる「Cybozu Live」「kintone」など自社ツールを使い、
オンライン上でも“信頼に基づく対話”を重ねています。

青野慶久 氏(社長)
「多様性は、放っておくと“バラバラ”になる。
 だからこそ、チームの目的を共有し続けることが大切。」

サイボウズの文化がユニークなのは、「自由」を“無秩序”にしない点です。
同社では「自由と責任のバランス」を全社員が言語化しており、
多様性の中に共通の目的意識が存在しています。

🧩文化キーワード:多様性/信頼/チームワーク
💬 象徴的な仕組み:100人100通り制度・社内SNS対話文化・チーム合意形成ルール


4社の文化比較まとめ

企業名文化キーワード象徴的な仕組み・実践文化の根幹哲学
SmartHRやさしさ × 自律 × オープン「Ask the CEO」/1on1文化心理的安全性と挑戦の共存
Sansan誠実 × 丁寧 × 顧客信頼「わざわざ賞」/手書き文化非効率の中に人間の価値を見出す
メルカリ挑戦 × 学び × 透明性OKR/失敗共有Slack失敗を恐れない成長文化
サイボウズ多様性 × 信頼 × チームワーク100人100通り制度/社内SNS自由と責任の共創

考察|「文化が戦略を超える」時代へ

これら4社に共通しているのは、文化が単なる“理念”ではなく、
経営の中核に組み込まれている点です。

  • SmartHR → 文化を「判断の基準」として共有
  • Sansan → 文化を「顧客体験の質」につなげる
  • メルカリ → 文化を「挑戦の制度」として設計
  • サイボウズ → 文化を「共創の枠組み」として機能させる

エドガー・シャインは「文化とは、外部適応と内部統合の課題に対する、
組織が時間をかけて学んできた最良の答えである」と述べました。
つまり文化とは、過去の“学び”の蓄積であり、未来への“選択”でもあります。

スタートアップの文化形成において最も重要なのは、文化を固定しないことです。
時代や組織フェーズに合わせて、常に“更新され続ける文化”であること。
SmartHRの「やさしさ」も、Sansanの「わざわざ」も、メルカリの「Go Bold」も、
その都度の課題に合わせて進化してきたのです。

💡まとめ:
文化は“作る”ものではなく、“磨き続ける”もの。
磨く手を止めた瞬間、文化は理念から“慣れ”に変わる。

スタートアップにとって、文化とは経営の副産物ではなく、最も強力な競争戦略です。
そしてその根底にあるのは、たったひとつ──「人を信じる」という思想。
それこそが、成長を続ける企業が共通して持つ文化の源泉なのです。

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